あかねの日記

惰性で続けるブログ

翔んで鹿児島

妹と鹿児島へ行くことになり、ここ三週間ほど司馬遼太郎の『翔ぶが如く』を読むことに全力を傾けていた(誇張)

まずは、引っ越し当時のまま放置していた段ボール箱の中から、文庫本を発掘するところからスタート。あのとき売らなくてよかった。

最初の二週間は、半期末の仕事に忙殺されながらも三巻まで読んだ。

九月末からラストスパートをかけ、八巻半ばまで進んだ。

しかし、あと二冊半残っている。なかなか進まない。

 

何でこんなに進まないのかというと、司馬先生が大いに筆を振るってくださっているお陰である。

『翔ぶが如く』は新聞連載であったせいか、それまでの背景がよく分からない読者が置いてけぼりにならないようにという配慮からであろう、場面説明や、登場人物の象徴的なエピソードや、ここに至るまでの経緯を、これでもかというくらい繰り返し説明してくれる。

また、登場人物の行動原理を、その人物の育った環境、修めてきた学問、動乱の世における経歴、培った思想などの根幹の部分から、司馬先生が膨大な資料を読み解き、人々に話を聞き、現地を歩いて調査した結果を、順序立てて丁寧にご説明してくれるのである。

さらに、「余談だが」「ついでながら」「話はそれるが」などと断り、現地を訪れた際のこぼれ話や、登場人物たちの意外な関係、読者からのご意見などを紹介し、ラジオパーソナリティーのように読者を楽しませてくれるのだ。

 

生来忘れっぽく、読んだ分だけ頭から出ていくところてん方式の頭脳しか持ち合わせていない私のような読者にとっては、懇切丁寧で大変親切な作りであると言える。

政治情勢と思想が複雑に絡み合った本作に私がついて行けるのは、ひとえに司馬先生が「一度の説明ではほとんどの読者は理解できないだろう」と考えたのかどうかは知らないが、重要な点をこれでもかと繰り返し述べて頭に叩き込んでくれるおかげである。ありがとう先生。

 

しかし、なかなか先へ進まない。

その説明数ページ前にもあったよ、先生...

そのエピソードもう五回は聞いたよ、先生...

それはさすがに覚えてるよ、先生...

台征のくだりが数巻に渡って続くだなんて思わなかったよ、先生...

重複部分を必要最小限に抑え、無くても成り立つエピソードを省いたら、この本の分量は三分の一くらいに圧縮できるんじゃないかと思う。

しかし、その冗長さこそが『翔ぶが如く』であるのも事実。

効率重視の『翔ぶが如く』は、きっと『翔ぶが如く』ではない。

 

話は逸れるが、大ヒットした交番女子コメディー『ハコヅメ!』の作者である泰三子さんが、現在『だんドーン』という「日本警察の父」川路利良を主役に据えた幕末史コメディーを連載しており、私はアプリで配信される最新話をちまちまチェックしている。

「ふーん、こんな人もいたんだね〜」と思いながら『だんドーン』を読んでいたのだが、この主人公の川路さんは『翔ぶが如く』にもめっちゃ出てた。一巻の主役かってくらい初っ端から出張っていた。 

 

え、『翔ぶが如く』にこんな人いたっけ...

一度読んだはずなのに全く覚えていない...

むしろ新鮮な気持ちで楽しめる...

『だんドーン』は幕末、『翔ぶが如く』は維新後が舞台なので、登場人物たちの過去未来を紐付けたり、キャラクター描写の違いを比較したりしながら読み進めるのもおもしろい。

それにしても、良い面も悪い面も暴き出され、無駄にイケメンにされたり体当たりのギャグをやらされたり、偉人になるってのは大変だ。

 

『だんドーン』は基本コメディーで、現代ノリのざっくりした説明では背景がよく分からなかったり、突如繰り出される現代ネタとドヤ顔シリアスシーンの落差に付いていけなかったり、実はすごい人感を出したいんだろうけどあまり伝わってこなかったりと気になる点は多々あるが、それでも読んでしまうおもしろさがある。

泰先生の描く、一介の薩摩藩士・川路正之進が、大警視・川路利良になるまでの過程が気になる。

 

そんなこんなで、『翔ぶが如く』八巻と九巻と十巻をカバンに詰め、私は鹿児島へと飛び立ったのであった。

 

続く