コラムニストの小田嶋隆さんが亡くなって一年になる。
長年、日経ビジネスオンラインで週刊コラムをご担当されていたので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれない。体の調子が悪いことはコラム内でも折々に触れられていたが、訃報を知ったときは熱心な読者でなくとも思いのほかショックを受けた。
コラムの内容は、大いに納得できることも、良いのか悪いのか判断しかねることも、強引な持っていき方だと思うことも、色々あった。
いずれにせよ、斜に構えてひねくれた感じ、言い訳だらけで本題に関係ない長い前置き、風刺的でシュールなイラスト、それら全体が毒気を醸し出しており、つい確認したくなって断続的な読者をやっていた。
言いたいことを一通り言い、間違えたり謝ったり炎上したり、しかし悪い面を隠す気も直す気も感じられず、ある意味誠実なコラムだったと思う。
小田島さんの著作は多いものの、コラムはwebだからこそ面白く読めたので、それらをまとめた書籍を手にしたことはない。
私が持っている本は一冊だけ、『上を向いてアルコール』というアルコール依存からの脱却を書いたエッセイだ。
まえがきによると、断酒してから約二十年、お酒を直視するのを避けていたが、何日もかけて少しずつ話すことで、あのころの自分が何だったのかについて一定の回答を見つけた気がする、とのこと。治療をしても再びお酒を飲んでしまう人が多いなか、なぜ自分は抜け出せたのかを淡々と振り返っている。
「何かに依存しているすべての人へ(本の帯)」の通り、依存体質の人のための示唆に富んでいると感じた。
私が一番印象に残っているのは、最初に診察を受けたときの先生との会話。アルコール依存症の治療で名高い、久里浜医療センターに長年在籍していた先生いわく、
本来私は、アル中は診ないんです。というのも、アル中は治らないから。久里浜にいたときも、何度診ても必ず飲んじゃう。八~九割は治らない。だけどまあ、あなたはインテリのようだから。
もしかしたら治る見込みがあるかもしれないから、診てあげることにする。
半分くらいはその言葉にのせられ、著者は治療を受けることとなる。後日、先生から「インテリだから診る」といった意味について説明があったそうだ。
先生の言うには、アルコールを止めるということは、単に我慢し続けるとか、忍耐を一生続けるとかいう話ではない。酒をやめるためには、酒に関わっていた生活を意識的に組み替えること。それは決意とか忍耐とかの問題ではなくて、生活のプランニングを一から組み替えるということで、それは知性のない人間にはできない、と。
インテリどうのはひとまず置いといて、「生活を意識的に組み替える」という部分にとても納得した。依存症にもうつ病にも当てはまることだと思う。根性論で頑張っても結局は上手くいかず、自己肯定感がだだ下がりするだけだ。
作中の著者は、お酒がないと楽しめない、飲み仲間とのつながりを断ちがたい、そういう気持ちを整理しながら、お店のコーヒーと紅茶を全種類制覇し、別のジャンルの本や音楽を親しみ、お酒のない生活を作っていっている。
あまり手に取ることのなかった小田島さんの書籍だが、たまにおススメされているのを見かけると、ちょっと読んでみたくなる。昔の本はお酒の力を借りて書いているかもしれないけれど。