86ページに620円+税を払うかどうかで迷っていたが、Amazonギフト券が手に入り頭がバグっているときに購入した。他ブロガー様のレビュー記事を拝読し、気になっていたというのもある。結果として、読んで正解だった。
以下三章から構成されている。
- 第一章:HSPブームの実情
日本でいつごろからブームになったのか?そのきっかけは?誰がHSPを名乗っているか?そもそもどこからきた言葉なのか?といったことが整理されている。 - 第二章:HSPブームの功罪
HSPはなぜ広く受け入れられたのか?それはどのようにして広まったのか?どのような「罪」の側面があるか?といったことが論じられている。 - 第三章:「消費」されるHSPブーム
HPSを利用した怪しいビジネスを取り上げている。また、HSPの「罪」とどう付き合うか?学術的な情報源としてはどのようなものがあるか?といったことにも言及されている。
第二章「HSPブームの功罪」が特におもしろかったので、要点をメモしておく。
HSPはなぜ広く受け入れられたのか?
- 「生きづらさ」に肯定的な物語を与えてくれる。
- 「5人に1人」という、多すぎず少なすぎない割合に安心感がある。(5人に1人という表現自体が適切でないことは本書内で指摘されている。)
- 「障害」というネガティブなラベルではなく、「生きづらさ」の良い側面にフォーカスしたポジティブなラベルである。
HSPは星座占いのようなものである。
- 世の中で発信されるHSP情報は、科学的な根拠に基づかないものが多い。いわゆる通俗心理学(ポピュラー心理学)として広まったと言える。
- 通読心理学には、星座占いや血液型性格診断のように明らかにエビデンスのない娯楽情報や、アドラー心理学、アダルトチルドレン、自己肯定感など、自己啓発本でよくみられるような「それらしさ」や「有用性」の装いを持つものも含まれる。
HSPは「診断」のためのラベルではない。
- 「HSP気質」と呼ばれるものは、学術的には「感覚処理感受性」と呼ばれる心理的概念。様々な性格特性の一つとして概念化されたものであり、発達障害や精神疾患として概念化されたものではない。
- 感受性に限らず、性格特性を構成する心理的特性の多くは正規分布に従う。感受性が高いだけの人をHSPとし、それ以外の大ぜいを非HSPとするのは乱暴。相対的な位置を示すものであり、「ある・なし」で判断するものではない。
- そもそもこの分野の心理学者は、感情処理感受性の個人差が、その他の心理学的な変数とどのように関連するのかを明らかにすることを目的に研究している。感受性が相対的に高い人の群をHSP群とする場合はあるが、個人がHSPであるかどうかを診断するためではない。
HSPであることに「価値づけ」する傾向がある。
- 学術的には、感受性が高かろうと低かろうと、それ自体に「価値」や「望ましさ」はない。
- ここでの「価値」とは、HSPであることを特別視したり、繊細さを優れた才能だと理想化する側面を示している。(価値づけしている書籍の例として、『「繊細さん」の4つの才能』『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』が挙げられている。)
- 「〇〇型HSPタイプ分け」の妥当性を支持する実証的研究はない。
偏見や差別、誤解を冗長する可能性がある。
- 「HSPは障害」という誤解を招くおそれがある。
- HSP自認者が発信する「HSPであることの特別感」「自己愛的な価値観」に対して、不快感を持つ人が現れる。
- HSP自認者が「自分はHSPであり障害ではない」と主張し、適切な障害支援につなげられない可能性がある。
- HSP自認が、むしろ自己理解や他社理解を狭める。
HSPの部分を他のワードに置き換えると、巷で話題のなんちゃって心理学や自己啓発にも大きく通ずるところがある。「もしかして私、踊らされてたの…?」と思い当たることもちらほら(マインドフルネスとか)。
HSPという言葉自体が悪いのではなく、拡大解釈が過ぎたり、万能感をうたったり、病気じゃないのに診療したりして、胡散臭いビジネスに利用されるのがいかんのだなあと思った。
「最近こういうタイトル多いな」と思う本を試し読みするときは、本書の考え方を念頭に置いておきたい。